大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和38年(ウ)436号 判決 1963年10月07日

判   決

鎌倉市山ノ内宮下小路七九〇番地

債権者

百橋茂雄

右訴訟代理人弁護士

長野国助

渡辺卓郎

丹波景政

高野敬一

東京都千代田区神田西福田町四番地

債務者

百橋タカ

右訴訟代理人弁護士

吉永多賀誠

大崎康博

右当事者間の昭和三十八年(ウ)第四三六号仮処分命令に対する異議申立事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

債権者債務者間の東京高等裁判所昭和三八年(ウ)第二二二号不動産仮処分命令申立事件につき昭和三十八年三月十八日なした仮処分決定はこれを取消す。

債権者の仮処分命令申請を却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。

第一項に限り仮に執行することができる。

事実

債権者代理人は主文第一項の仮処分決定を認可する旨の判決を求め、仮処分申請の理由として、次のとおり述べた。

別紙第一、第二目録記載の不動産はすべて実質上債権者の所有であるが、右第二目録記載の不動産は登記簿上債務者の所有名義となつている。

債権者(原告)は債務者(被告)を相手方として昭和三十三年十月離婚請求の訴を東京地方裁判所に提起し(昭和三三年(タ)第二四七号)、これに対し債務者(反訴原告)は債権者(反訴被告)に対し反訴を提起し(昭和三四年(タ)第一三号)係争中であつたが昭和三十五年十一月二十九日左の如き裁判がなされた。

主文

原告(反訴被告)の請求を棄却する。

被告(反訴原告)と原告(反訴被告)とを離婚する。

財産分与のため、被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し別紙第二目録の不動産につき所有権移転登記手続をし原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し別紙第一目録の不動産につき所有権移転登記手続をしかつ金三百万円を支払え。

訴訟費用は本訴、反訴とも原告(反訴被告)の負担とする。

ところが債権者は右判決の一部に不服があるため控訴を提起し(東京高等裁判所昭和三五年(ネ)第二、九〇六号)、債務者も右判決を不服とし控訴を提起し(同庁昭和三五年(ネ)第二、九一三号)併合審理中である。

右第一審判決により明かなように別紙第二目録記載の不動産は債権者の所有として債務者名義に所有権移転登記手続を命ぜられているにかかわらず、債務者は右不動産が債務者の所有であると主張しこれを売却処分しようとしているから将来債権者が財産分与の訴を提起し勝訴の確定判決を得ても右不動産が第三者の名義に移つていては権利の実行に著しい支障を来すから仮処分の必要があり、別紙第二目録不動産につき処分禁止の仮処分の申請をしたのである。これを認容した仮処分決定は相当であるからその認可を求める。

債務者の管轄違いの主張を争う。前記離婚訴訟の第一審判決は別紙第二目録不動産につき債務者に対し、債権者に所有権移転登記手続をなすべく命じ、債務者はこれに対し控訴を申立て係争中であるから本案訴訟が控訴審に係属しないとなすことは誤りである。

債務者代理人は主文と同趣旨の判決を求め、仮処分異議理由として次のとおり述べた。

債権者主張事実中別紙第一、二目録記載の不動産がすべて債権者の所有であることは否認する。その主張の本案訴訟が行われ第一審で前記主文の判決が言渡され各自控訴し係争中であることは認める。仮処分必要性の主張は否認する。

本件仮処分の申請は控訴裁判所たる東京高等裁判所になされたものである。民事訴訟法第七六二条但書によると本案訴訟が控訴裁判所に係属するときに限り仮処分の命令管轄は右控訴裁判所にある。然るに債権者債務者間には本件仮処分申請の時において別紙第二目録記載の不動産に関する本案訴訟は東京高等裁判所に未だ提起せられていない。よつて本件は専属管轄の規定に反する仮処分であるから不適法として却下すべきである。よつて原決定は取消を免れない。

理由

訴による離婚の請求をした場合、当事者の一方から他の一方に対し財産分与の請求をこれに併合して提起し得ることは人事訴訟法第十五条第一項の規定するところであり、右財産分与の請求権を本案の被保全権利として、仮差押あるいは仮処分命令の申立をなし得るものと解するのが相当である。

しかして離婚請求事件が控訴審に係属している場合右離婚の請求に併合して財産分与の請求をなし、またはなさんとする場合その請求権保全のための仮処分申請は民事訴訟法第七六二条但書によつて控訴裁判所になすべきものと考える。

本件債権者は当庁に本件仮処分の申請をした時は未だ財産分与の請求をしていなかつたが将来当庁にこれを提起することのできる地位にあつたのであるから当庁に右仮処分申請事件の管轄権があつたものというべきである。

しかし離婚の控訴事件の口頭弁論終結に至るまで債権者は債務者に対し遂に財産分与の請求をすることなくして過ぎ、本件仮処分の被保全権利についてなんら十分な疎明がなされていない。前記の如き第一審の判決がなされたことは争ないところであるけれども右判決をもつては未だ債権者に債務者から財産分与を受けるべき権利ありとの疎明となすことはできない。

そうすると本件仮処分の申請は、被保全権利につき疎明なく保証をもつて右疎明に代えることも適当でないからこれを却下すべきである。

よつて本件仮処分決定を取消し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第九民事部

裁判長判事 谷 口 茂 栄

判事 加 藤 隆 司

判事 宮 崎 富 哉

第一、第二目録(省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例